ストーリー
月島春は、パートナーの宗一朗、その連れ子である高校生の蘭と生活を共にしていたが、蘭はカナダに留学することが決まっていた。空港で蘭を見送る宗一朗と春。春は、蘭が去ることに言い知れぬ寂しさを抱えていた。
ある日、春は元夫の賢治から食事に誘われる。賢治は再婚することを春に告げる。付き合っている相手が妊娠したための、「授かり婚」だと言う。結婚していた当時、賢治と春の間にも、産まれてこなかった子どもがいた。
その帰り道、春は電車の窓から「里親募集」の貼り紙を見つける。翌日相談所で話を聞き、宗一朗に二人で里親になって子どもを引き取りたいと話を持ち掛ける。蘭が去ったばかりの急な提案に驚き、それを一蹴する宗一朗。その挙句「他に好きな人ができたから別れて欲しい」と春に告げる。蘭に続いて宗一朗も失った春は、一人荷物を抱えて家を出る。
春の弟、毅は精肉店の仕事の傍らラッパーとして創作活動を続けている。その妻、美香子は精神的な不安を抱えながらも、4歳の光太郎を育て、詩作のサポートからライブでの撮影まで、毅を献身的に支えている。美香子は定期的に、心療内科の医師である宗一朗の診察を受けていた。
行き場を失い公園のベンチで夜を過ごしていた春は、芝生の上に1人の青年が倒れているのに気付く。声をかけ病院に連れていくと、これまでの記憶を失っていることが分かる。そのまま身元引受人となった春は、実母しまの家に青年を連れていき、記憶が戻るまで傍に置いておくと告げる。しまは戸惑うが、春は意に介さず、名前が無いと困るからと、その青年を「生人(なると)」と名付ける。実家に来ていた毅はしまと共に、赤の他人を勝手に引き取ろうとする春に反対するが、春は全く聞く耳を持たない。
翌朝しまの家の2階で目を覚ました生人は、部屋のドアを開けようとするが開かない。春が外側から鍵をかけていたのだ。生人はドアをどんどんと叩くが、春は反応せず、物音で事態に気づいたしまが、ドアの鍵を開ける。生人が部屋から出てくるその瞬間、春は自分の喉に鋭い裁ちバサミを突きつけ「出ていくんやったら死ぬで」と静かに告げる──。
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