3rd Time Lucky
三度目の、正直
3rd Time Lucky

出演:川村りら小林勝行出村弘美川村知田辺泰信謝花喜天福永祥子影吉紗都三浦博之

監督・編集:野原位

2022.1.22(土)
シアター・イメージフォーラムほか
全国順次公開

予告編Trailer

最新情報

イントロダクション

子供、家族、愛情──
わたしが本当に求めているものは?
当たり前の日常を生きる
すべての人々に贈る人生賛歌

イントロダクション1

月島春は、パートナー宗一朗の連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんな時、公園で記憶を失くした青年と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅は音楽活動を続けている。その妻・美香子は精神の不調を抱え、心療内科医である宗一朗の診察を受けながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。すれ違う優しさとわだかまる不安…。それぞれに「家族」のかたちを求めて生きる彼らだったが、正常と狂気の境目がいつしか緩やかに崩れ始める。シリアスな題材を扱いながらも、どこか重喜劇を彷彿とさせる可笑しみにあふれ、何度失敗したとしても人生を改めて生きなおす人々の姿が等身大に描き出される。

イントロダクション2

『ハッピーアワー』から7年──
続く人生を生きる人々の 新たな物語のはじまり

本作は、黒沢清監督『スパイの妻』(20)、濱口竜介監督『ハッピーアワー』(15)の共同脚本を担当した、野原位監督の劇場デビュー作。『ハッピーアワー』で物語を牽引する「純」を演じ、第68回ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞受賞のひとりとなった川村りらが主演、子どもを育てたいと切に願いながら、どこか狂気を宿した女性を鮮烈に演じてみせた。また、神戸出身の孤高のラッパー・小林勝行が俳優に初挑戦。自身を投影した役柄で劇中でもライブを披露、無骨ながら生々しいその存在感も見どころのひとつだ。『ハッピーアワー』から7年。今回は監督を務めた野原位、そして主演だけでなく脚本にも参加した川村りらをはじめ、俳優・撮影・照明・録音の制作チームが再び神戸に結集。
日常に潜む心の機微を丹念に描く、もう一つの群像劇が誕生した。

ストーリー

月島春は、パートナーの宗一朗、その連れ子である高校生の蘭と生活を共にしていたが、蘭はカナダに留学することが決まっていた。空港で蘭を見送る宗一朗と春。春は、蘭が去ることに言い知れぬ寂しさを抱えていた。

ある日、春は元夫の賢治から食事に誘われる。賢治は再婚することを春に告げる。付き合っている相手が妊娠したための、「授かり婚」だと言う。結婚していた当時、賢治と春の間にも、産まれてこなかった子どもがいた。

その帰り道、春は電車の窓から「里親募集」の貼り紙を見つける。翌日相談所で話を聞き、宗一朗に二人で里親になって子どもを引き取りたいと話を持ち掛ける。蘭が去ったばかりの急な提案に驚き、それを一蹴する宗一朗。その挙句「他に好きな人ができたから別れて欲しい」と春に告げる。蘭に続いて宗一朗も失った春は、一人荷物を抱えて家を出る。

春の弟、毅は精肉店の仕事の傍らラッパーとして創作活動を続けている。その妻、美香子は精神的な不安を抱えながらも、4歳の光太郎を育て、詩作のサポートからライブでの撮影まで、毅を献身的に支えている。美香子は定期的に、心療内科の医師である宗一朗の診察を受けていた。

行き場を失い公園のベンチで夜を過ごしていた春は、芝生の上に1人の青年が倒れているのに気付く。声をかけ病院に連れていくと、これまでの記憶を失っていることが分かる。そのまま身元引受人となった春は、実母しまの家に青年を連れていき、記憶が戻るまで傍に置いておくと告げる。しまは戸惑うが、春は意に介さず、名前が無いと困るからと、その青年を「生人(なると)」と名付ける。実家に来ていた毅はしまと共に、赤の他人を勝手に引き取ろうとする春に反対するが、春は全く聞く耳を持たない。

翌朝しまの家の2階で目を覚ました生人は、部屋のドアを開けようとするが開かない。春が外側から鍵をかけていたのだ。生人はドアをどんどんと叩くが、春は反応せず、物音で事態に気づいたしまが、ドアの鍵を開ける。生人が部屋から出てくるその瞬間、春は自分の喉に鋭い裁ちバサミを突きつけ「出ていくんやったら死ぬで」と静かに告げる──。

プロフィール

監督・脚本: 野原位

監督・脚本

野原位 のはら・ただし

1983年8月9日、栃木県生まれ。2009年東京藝術大学大学院映像研究科監督領域を修了。修了作品は『Elephant Love』(09)。共同脚本・プロデューサーの『ハッピーアワー』(15/濱口竜介監督)はロカルノ国際映画祭脚本スペシャルメンションおよびアジア太平洋映画賞脚本賞を受賞。また共同脚本として黒沢清監督の『スパイの妻』(20)に濱口監督とともに参加。劇場デビュー作となる『三度目の、正直』が第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品された。

月島春 役・共同脚本: 川村りら

月島春 役・共同脚本

川村りら かわむら・りら

1975年11月5日生まれ。濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(2015)で俳優デビュー。2015年、同作で第68回ロカルノ国際映画祭Concorso Internazionale最優秀女優賞を受賞。また、本作『三度目の、正直』では共同脚本も担当している。他出演作、共同脚本作品に短編『すずめの涙』(2021)がある。

月島毅 役: 小林勝行

月島毅 役

小林勝行 こばやし・かつゆき

1981年生まれ、兵庫県神戸市出身のラッパー。2011年に1stアルバム「神戸薔薇尻」を発表。国内のヒップホップアンダーグラウンドで高く評価された。2017年に待望の2ndアルバム「かっつん」を発表する。小林自身の人生に密着したドキュメンタリー映画『寛解の連続』(2019/光永惇監督)が2021年に公開される。

月島美香子 役: 出村弘美

月島美香子 役

出村弘美 でむら・ひろみ

1985年大阪府生まれ。旧京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科卒。在学中、ダンス・演劇に出会う。現在は京都を中心に活動。主な活動として、インタビューやフィールドワークをもとに多文化・通訳に焦点を当て舞台作品を創作する「BRDG」への出演や、「中川裕貴、バンド」での、声(音)や行為としての参加など。濱口竜介監督 映画『ハッピーアワー』(日向子役)に出演。近年は朗読やナレーション、また、録音を用いた創作をはじめる。

月島生人/樋口明 役: 川村知

月島生人/樋口明 役

川村知 かわむら・とも

1999年9月14日生まれ。京都市出身。2015年に濱口竜介監督の『ハッピーアワー』で映画デビュー。2015年からオーストラリアのクイーンズランド州在住。2021年クイーンズランド大学を卒業し日本に帰国予定。

野田宗一朗 役: 田辺泰信

野田宗一朗 役

田辺泰信 たなべ・やすのぶ

1997年から2001年まで劇団維新派に所属。国内及び海外公演に参加した後、心身の探究のため作業療法士免許取得。活動を再開した近年は、『ハッピーアワー』/『れいこいるか』/『心の傷を癒すということ〈劇場版〉』/松田正隆 作・演「シーサイドタウン」/BROTHER SUN SISTER MOON「I Said」MV などの出演がある。

大藪賢治 役: 謝花喜天

大藪賢治 役

謝花喜天 ざはな・よしたか

1974年5月15日生まれ。兵庫県出身。2002年にキム・スジン監督の『夜を賭けて』で俳優デビュー。その他の主な出演作品は、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』など。脚本家(よしおよしたか名義)としても活躍しており、『還れ、大山へ』(平成27年度中四国ラジオドラマコンクール入選)、『時子』(2015年イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリを受賞)などがある。

コメント

監督コメント

共同脚本を務めた濱口竜介監督の『ハッピーアワー』では、スタッフとしても神戸で1年以上現場を体験し、演者とスタッフの信頼関係がどれほど映画内の世界に影響するかを痛感しました。ようやく自分の映画を撮れるとなったタイミングで迷わず彼らに参加オファーをしました。山と海、都市がコンパクトに共存する神戸の街も変わらず魅力的でした。
主演の川村りらさんはカメラを通してみると、溢れ出る力強さがあり、発する声に誠実さを感じる俳優さんです。人を撮りたいということにおいては『ハッピーアワー』と共通する部分がありますが、異なる趣の作品になっていると思います。登場人物たちの感情に寄り添いながら観ていただければとてもありがたいです。

『三度目の、正直』 監督 野原位

この新人監督の第一作には、近年の世界映画でもっとも過激、かつ繊細な切り返しショットが含まれている。その一瞬の恍惚を共有するために、誰もが映画館に駆けつけねばならぬ。

蓮實重彥(映画評論家)

「普通の女性」とはなんだろう。家族に傷つけられたある女性は、血の跡を辿られ、すぐに家族に発見された。これは普通の範囲だろうか、ではどこまでが?
『三度目の、正直』は「普通」「家族」大括りの言葉から、丁寧な描写の積み重ねでひとつずつ大切なことを掘り出してゆく。
ずっとこんな映画を見たかった。

山本美希(漫画作家、筑波大学准教授)

よく散歩している須磨海岸をはじめ、住んでいる神戸の街が舞台だからなのか?
登場人物に 妙に親近感。

親子、夫婦、男女のズレに
モヤモヤしながら、妙に共感。

母、妻、女性として
これからも 奔走しよう

小原正子〈クワバタオハラ〉(お笑い芸人)

地域コミュニティがとうにマボロシと化した地方都市で、普通の人々がただ普通に生きようとして直面する凄まじい苦悩と危機を、この映画は淡々と暴き立てる。何かが確実に崩壊している。しかし同時に、希望もそこにある。

黒沢清(映画監督)

本作が我々を震撼させるのは、二人または複数の人物が同じ光に身を曝すという一般にはごくありふれた事態として片付けられてしまうような状況を、無数の光学体制の並存によって断片化された場としての世界の中に書き込み直すことで、そっくりそのまま、ただならぬ事態として呈示してみせるからだ。

廣瀬純(本作パンフレット寄稿『光学と力学』より抜粋)

この世のすべての会話はすれちがっている。言葉と言葉の行き交い、身体と身体の居合わせかた、その意味や波長がなんとなく通じれば、ひとは二者間がうまく成立していると感覚するし、整合性のつかなさのほうに凝ってしまえば、とたんに二者間の破綻の種になるだけだ。すぐれた会話場面とは、このどうしようもない断絶と救済をどうじに描くもので、『三度目の、正直』のいくつかの場面に胸をつかれてしかたない。

五所純子(本作パンフレット寄稿『波間に』より抜粋)

希望と呼びたいその光に、暗い波間に弔いの花を投げて狂を治めた春の後ろ姿、殆どハードボイルドなその残影がからまって、抑制の語り口にドラマが照り返る。『ハッピーアワー』の共同脚本家という肩書きだけではすまない監督野原の真の醍醐味がそこに強かに浮かんでいる。

川口敦子(本作パンフレット寄稿『寛解の連続を生きる人の姿を見すえて──監督野原位の磁力』より抜粋)

女性の視点を描く野原監督の鋭い能力

ハリウッド・レポーター
日本でここまでジョン・カサヴェテスに近い作品を完成させたことに嫉妬を禁じ得ません
濱口竜介(10/31版TIFF Times)

劇場情報